富士フイルム、iPSでがん免疫薬 患者以外の細胞で

富士フイルム、iPSでがん免疫薬 患者以外の細胞で
【イブニングスクープ】

エレクトロニクス
ヘルスケア
北米
2019/7/1 18:00 (2019/7/1 21:33更新)

富士フイルムホールディングスは1日、独製薬大手バイエルと組み、iPS細胞を使ったがん免疫薬の開発を始めると発表した。iPS細胞を使う薬がまだ世界で実用化されていない中、両社は大量に培養できる患者以外の第三者のiPS細胞を用いて開発する。従来の細胞を使ったがん免疫薬は日本では1回の投与で数千万円し高額だが、両社の手法でコストが下がる可能性がある。

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富士フイルムなどはCAR-T(カーティー)と呼ばれる技術を用いたがん免疫薬を開発する。CAR-Tは採取した免疫細胞に、がん細胞への攻撃力を高める遺伝子操作を加える治療法。患者の細胞を培養して増やし、点滴で患者の体内に戻す手法が研究の主流だ。
今の技術では第三者のiPS細胞から作ったCAR-T細胞を体内に入れると拒絶反応が起こる。他人のiPS細胞から誰でも使えるCAR-T細胞を作る技術は京都大学を含め世界で研究が進むが、まだ手法は確立されていない。富士フイルムなどは拒絶反応を起こさない技術を開発する。
富士フイルム子会社とヘルスケア分野に強い米ベンチャーキャピタル(VC)のバーサント・ベンチャー・マネジメントが設立した米社にバイエルが出資した。各社の出資比率は非公表だが、富士フイルムが米社を持ち分法適用会社とする。
開発費は2億5000万ドル(約270億円)を見込み、がん領域を強化しているバイエルが9割弱を負担する。富士フイルム子会社はiPS細胞に関する技術の提供と製造を担う。2~3年後をメドに治験を始める方針だ。開発が成功すれば、富士フイルムは製造受託による安定収益などを見込める。
CAR-Tはスイス製薬大手ノバルティスが開発した「キムリア」が代表的だ。日本でも5月から公的医療保険の適用対象になったが、患者自身の細胞を培養させるため提供するまでに1カ月程度かかる。専門の資格を持つ培養士がオーダーメードで作業するためコストがかさみ、日本での薬価は1回の投与で3000万円を超える。
富士フイルムは第三者のiPS細胞を使い、大量生産して常備する技術の確立を目指す。まず健常者の細胞から作ったiPS細胞に遺伝子操作を加える。がん細胞への攻撃性を持たせた免疫細胞を増やして最終的に製剤化する。患者ごとに作る必要がなく、診断を受けてから処方されるまでにかかる時間を大幅に短縮できる見込みだ。
がん免疫薬は将来的に市場規模が4兆~5兆円に拡大するとされる成長分野だ。iPS細胞を使った技術を巡っても、世界の製薬大手が今後相次ぎ開発に乗り出す可能性が高い。富士フイルムが先行して実現すれば、再生医療分野で日本企業が主導権を握れる可能性がある。