インドが月面探査機打ち上げ 世界初の月の南極への着陸目指す

インドが月面探査機打ち上げ 世界初の月の南極への着陸目指す

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宇宙開発を強化しているインドは22日、月面探査機の打ち上げに成功し、水が氷の状態で存在すると指摘される月の南極に世界で初めて着陸できるか注目が集まっています。
インド政府の宇宙機関は、22日、南部アンドラプラデシュ州にある宇宙センターで、無人の月面探査機「チャンドラヤーン2号」を載せたロケットを打ち上げました。

ロケットが切り離されたあと、探査機は、月に向かう軌道に入って打ち上げに成功し、技術者たちは抱き合いながら大きな歓声を上げて喜びました。

探査機は9月7日に月面に着陸する予定です。月面着陸には、ことし4月にイスラエルの民間の探査機が失敗していて、今回、インドが成功すればアメリカと旧ソビエト、それに中国に続いて4か国目となります。

今回、インドは、太陽の光があたらず、水が氷の状態で存在すると指摘される月の南極への着陸を世界で初めて目指しています。成功すれば、探査によって水の存在の解明が進み、将来的な月面基地の建設などにもつながる可能性があります。

インドの宇宙機関のシバン長官は、「打ち上げは予想以上にうまくいった。インドが月の南極で行う歴史的な旅の始まりだ」と述べ、宇宙開発技術の高さをアピールしました。

また、モディ首相はツイッターに、「栄光の歴史に刻まれる瞬間だ!すべてのインド人はきょうをとても誇りに思う」と書き込み、喜びをあらわにしました。

モディ政権は、国産の宇宙船による有人飛行を2022年までに実現させるとしているほか、独自の宇宙ステーションの建設も計画するなど宇宙開発を強化しています。

インドの取り組み 月の南極で水の存在の解明に期待

今回、インドが打ち上げた月面探査機「チャンドラヤーン2号は」、2008年に打ち上げに成功した月探査衛星「チャンドラヤーン1号」の後継に当たります。

チャンドラヤーン」とは、古代からインドなどで使われたサンスクリット語で、「月への乗り物」を意味していて、インドは今回、アメリカ、旧ソビエト、中国に次いで4か国目の月面着陸を目指しています。

NASAアメリカ航空宇宙局は去年、1号機に搭載されたNASAの観測機器のデータ分析などから「太陽の光があたらない月の南極と北極にあるクレーターの表面に、水が氷の状態で存在する決定的な証拠が得られた」と発表しました。

今回、2号機は、世界で初めて月の南極への着陸を目指していて、特殊なカメラやX線を使って月の表面の物質などを調べることで、水の存在の解明が進むと期待されています。

月に大量の水が存在すれば宇宙飛行士の生活用水のほか、水素と酸素に分解することで燃料としても活用できるということで、将来的な月面基地の建設にもつながる可能性があります。

月の南極を目指す意義

インドの探査機が着陸を目指す月の南極は、関係者の注目を集めている場所です。
月の南極にある一部のクレーターには、太陽の光があたらない「永久影」と呼ばれる特殊な場所があり、水が氷の状態で存在する可能性があると指摘されています。

水は、飲み水などとして宇宙飛行士の生活に使うことができるほか、水素と酸素に分解することによってロケットなどの燃料になると期待されていて、将来的な月面基地の建設につながる可能性があるとして、各国が探査計画や資源として利用する研究を競うように進めています。

しかし、月の南極は起伏が激しいほか、温度が極めて低いため、着陸やその後の活動が難しいとされ、これまで月の南極に降り立った探査機はありません。

インド 本格的な宇宙開発に乗り出して50年

インドは、50年前の1969年に宇宙の研究機関を設立したのをきっかけに、本格的に宇宙開発に乗り出しました。

当時、関係が良好だった旧ソビエトから支援を受けながら開発を進め、1975年に初めて衛星を打ち上げたのに続き、1984年にはインド人初の宇宙飛行士が旧ソビエトの有人宇宙船で打ち上げられ宇宙に滞在しました。

2000年代に入るとアメリカの協力も得ながら太陽系の探査に乗り出し、2008年に月探査衛星「チャンドラヤーン1号」を打ち上げたほか、2014年には火星探査機をアジアの国としては初めて、火星を回る軌道に投入することに成功しました。

モディ政権はイギリスから独立して75年となる2022年までに国産の宇宙船による有人飛行を実現させるとしているほか、独自の宇宙ステーションの建設計画も明らかにしており、宇宙開発を通じた国威発揚のねらいもあるとみられます。

一方でインドは、周辺地域で存在感を強める中国を念頭に、2012年に射程が5000キロを超え中国全土を射程におさめるICBM大陸間弾道ミサイルの発射実験に成功したほか、ことし3月には、人工衛星のミサイル撃墜実験に成功したと発表するなど、軍事の分野でも宇宙開発を応用しています。

トップランナーアメリカ 再び宇宙開発を加速させる

長年、ロシアとともに宇宙開発のトップランナーであり続けたアメリカは、再び宇宙開発を加速させています。

おととし、トランプ大統領は宇宙飛行士を再び月に送ることなどを盛り込んだ新たな宇宙政策に関する文書に署名しました。

NASAアメリカ航空宇宙局では、民間企業の参入を促しながら宇宙開発を加速させることにしていて、探査の拠点として、月を周回する新しい宇宙ステーション、「ゲートウェイ」の建設を各国に呼びかけていて、2026年ごろの完成を目指しています。

アメリカはオバマ大統領の時代に、予算がかかりすぎるとして月や火星への有人飛行は取りやめていましたが、政治的なねらいに加えて、このところ宇宙空間でも各国の軍事技術の競争が激化していることが、政府が力を入れる理由です。

一方で、アメリカ国内では、民間企業が月を目指す動きも加速していて、宇宙開発ベンチャーの「スペースX」は、2023年に初めて民間人を乗せて、月を周回する宇宙船を打ち上げる計画です。

中国 「宇宙強国」の仲間入りが目標

中国政府は2030年までに世界の宇宙開発をリードする「宇宙強国」の仲間入りを果たすという目標を掲げ、宇宙開発における存在感を強めています。

2003年に国家の重点プロジェクトとして月の探査計画をスタートさせ、探査衛星の打ち上げを進め、ことし1月には、世界で初めて、無人の月面探査機を月の裏側へ着陸させることを成功させました。

また、ことしの年末ごろに新たな無人探査機を打ち上げ、月の岩石などのサンプルを地球に持ち帰る計画であるほか、各国とも協力して月面基地の建設に向けて調査を進めることにしています。

中国は一連の探査計画で月にある利用可能な資源について調査を進め、将来的にはウランやチタン、それに核融合で使えば巨大なエネルギーが得られるとされる「ヘリウム3」などの資源の獲得を視野に入れているものとみられます。

日本の月探査の現状

日本でもJAXA宇宙航空研究開発機構や民間企業が月への着陸や資源探査を行う計画を進めています。

このうち、JAXAは再来年度に打ち上げて月面着陸を目指す無人の着陸機「SLIM」の開発を進めています。

また、アメリカは月を周回する新しい宇宙ステーション「ゲートウェイ」への参加を各国に呼びかけていて、日本はこれまで国際宇宙ステーションで培った有人宇宙技術をいかして参加できないか検討しています。

民間企業では、トヨタ自動車JAXAが水素を燃料とする燃料電池車の技術を活用して、人が乗って月の表面を走る月面探査車を協力して開発していて、月面で1万キロ以上の走行を目指すとしています。

さらに、東京のベンチャー企業「ispace」も、官民ファンドなどの出資を受けながら再来年(2021年)、探査車を月に送り込んで水資源を探す計画です。