3D画像で現場を「保存」 多角的検証、交通事故でも

3D画像で現場を「保存」 多角的検証、交通事故でも

スコープ
社会
2019/7/28 5:30 日本経済新聞 電子版
警視庁が未解決事件の現場周辺を3次元(3D)の画像や動画で再現する取り組みを進めている。当時の写真や地図を基に、視覚に訴えやすい画像を作ることで「ささいな記憶でも喚起したい」という狙いがある。公開による情報提供の増加など一定の効果も出始めた。3D技術の活用は、交通事故など現場状況を多角的に把握する必要のある捜査にも広がる。
壁に「スーパーナンペイ」とある建物の2階事務所には明かりがついていた。店舗の入り口近くには公衆電話などがあり、近くの公園で住民が盆踊りの後片付けをしている。1995年に起きた八王子スーパー射殺事件の現場を再現した3D動画で、23日に警視庁ホームページ(https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/)上に公開された。
当時の実況見分の調書や鑑識課撮影の写真、住宅地図などから建物や道路の細かい寸法を割り出し、周辺住民が提供した写真も参考にして動画作成ソフトに入力した。
同庁による3D動画の作成は3件目だ。96年の葛飾区の女子大生殺害事件、2000年の世田谷一家殺害事件の動画は18年に公開した。
捜査が長期化すれば現場周辺の様子も変わり、解決の糸口となる情報提供の数も減少する。世田谷の事件では現場近くの民家がなくなり、発生後1年間で約6千件あった情報提供は17年には100件台にとどまった。
3D画像などの公開には一定の成果も見える。世田谷一家殺害事件で犯人のものとみられる靴の3D画像を18年8月に公開すると、情報提供が増えたという。
3D技術は交通事故など、現場を多角的に検証する必要のある捜査への活用も進む。
捜査員が三脚の上に箱型の装置が載った「3Dレーザースキャナー」を交通事故現場の様々な場所に置く。装置には目に見えないレーザーを照射するレンズが搭載されており、複数箇所から撮影すると現場の状況を立体的に保存できる。
保存したデータは、パソコン画面上で表示が可能。周囲の建物の大きさや車の破損状況から、路面に残る衝突の痕跡、遺留品の散乱状況にいたるまで精密に再現し、様々な角度から現場を"見る"ことにつながる。
この装置を使えば通常よりも少人数による実況見分などで現場を正確に記録でき、捜査の合理化が図れる期待もある。
警視庁は14年に導入し、捜査幹部は「捜査が長期化しても、当時の様子を繰り返し確認することが可能だ。途中から加わった捜査員も状況を把握しやすい」と話す。
警察の捜査に詳しい東洋大桐生正幸教授(犯罪心理学)は「3D動画は視覚を通じて多くの情報を伝えられ、記憶の喚起や的確な状況把握に有効」と指摘する。3Dスキャナーによる測定も「仮想世界で現場を何度も歩くことが可能になる。積極的な活用が求められる」と語る。