MRJ向け「もう特別な準備は…」 人手・費用難で

MRJ向け「もう特別な準備は…」 人手・費用難で
(気流に乗れ 中部航空機産業)

自動車・機械
中部
2019/2/28 6:30 日本経済新聞 電子版
2020年半ばの初号機納入に向け、国産民間ジェット機三菱リージョナルジェットMRJ)」の開発が最終局面に入った。三菱重工業が08年に事業化を決めてから納期は5回延期され、10年間で中部のサプライヤーを取り巻く環境も大きく変わった。期待と失意のはざまで、最大の難関は人材の確保だ。
MRJを開発する三菱重工業の子会社、三菱航空機(愛知県豊山町)が初号機の納期を延ばすたび、サプライヤー各社はヒト、モノ、カネの工面に追われた。「もうMRJのためだけに特別な準備はできない」。機体の組み立てを担う東明工業(愛知県知多市)の担当者は身構える。
■増員直後の苦い経験
脳裏をよぎるのは2年前の苦い教訓だ。同社はMRJの生産開始に向けて250人程度を充てていたが、その矢先の17年1月に突如、5回目の納入延期が伝わった。従業員を自動車関連部門などに配置転換して急場をしのぐ日々。「ウチが航空機事業に特化していれば、今ごろ経営は危機的な状況だった」という。
試験飛行を行うMRJ(愛知県営名古屋空港)
試験飛行を行うMRJ(愛知県営名古屋空港
MRJは直近で407機(基本合意を含む)の受注を抱える。20年半ばの初号機納入に向け、量産に必要な国の型式証明(TC)取得に向けた準備を進めている。生産は2カ月に1機程度でスタートし、22年にも月産1機を目指す。中部のサプライヤーでは「今度こそ」の期待が高まる。
しかし、この10年で経済環境は大きく変わった。特に人手不足は技術者に人気の高い航空機産業にもあてはまる。愛知県の有効求人倍率は07年以来の高水準にある。MRJの量産が実現すれば東明工業も人員を増やす計画だが、今春の新卒採用は目標の100人に対し30人程度だった。
■入念な準備、かさむ費用
先行投資もじわりと経営にのし掛かる。18年半ばまで内外で好景気と低金利が併存する「適温経済」が続いてきたが、米中摩擦や中国経済の伸び悩みをきっかけに株安や金利上昇リスクが意識され始めた。受注残を背景に増益だったボーイング三菱重工業の業績にも先行き不透明感が漂う。大手に比べ事業基盤の弱い中堅・中小サプライヤーはなおさらだ。
旭精機工業は4月以降、MRJ向けに翼部品の加工を本格化する。「図面通りの部品を出すには入念な準備が必要」(阿比留憲史専務)として、専用工場に約20億円の設備投資を行った。年商の2割近い一大投資で社運をかけるが、MRJの量産が遅れた影響で稼働率は4割前後に過ぎない。
機体組み立てのテックササキ(名古屋市)も納入の延期でかつて多くの余剰人員を抱えた経験がある。「今は想定外の事態が起きても経営への影響を最小限にとどめたい」として、規模拡大より、従業員一人ひとりの能力を底上げすることを優先している。MRJの生産が軌道に乗るまで、慎重に事業を進めるサプライヤーは多い。(角田康祐)